理事長先生にお話を伺いました

美田園わかば幼稚園
佐々木 加知枝理事長

―― 震災後、幼稚園を再建しようと思ったのは?

一瞬にして家から何もかも無くし、親戚や知り合いも多く亡くなったので、正直、幼稚園の再建という事は頭にありませんでした。津波に流されて、自分自身の将来も見えない状況でしたから。

再建を最初に考えたのは、事務長(息子)から熱い想いを伝えられた時です。
「56年間この地(閖上)にあった、たったひとつの幼稚園をとりもどしたい。今は、仮設やそれぞれに点々としてしまっているけれど、閖上の人たちが、もう一度心ひとつに集まれる場所を作りたい」と。

事務長は、津波に奪われ、瓦礫に埋まる閖上の姿を見ながら、ただ呆然と、「どうやったら閖上の地域を再建できるか」と考えていたようです。そして彼の周りの若い人たちの強い想いも聞いて、私は応援しようと思いました。

―― 震災の時、理事長先生は、大変な経験をされたと聞きましたが。

理事長先生津波が来ると言われても、堤防スレスレだろうと、まず逃げることが怖かったんですね。あの時、大きな余震が二度ありましたよね?阪神淡路大震災の時は、ガレキの下になることが1番怖いと聞いていましたから。なので、逃げるのが遅れたのです。

このままでは津波で危ないことに、本当に気づき、車で逃げました。
でもそれではもう間に合わなくて、道路を走っているとき名取川からのすごく高い津波が見えて、一瞬にして巻き込まれました。瓦礫と共に流されました。

閖上の写真館の塀に車がひっかかり、一時停滞していたのですが、もう一波によりもう一度巻きあげられ。
その時、無意識にエンジンをかけたのです。そしたら、なぜか車の窓が空いて。

窓から脱出しました。瓦礫や水が入ってくる中、もう必死になって。
大きなドラム缶が漂っていたので、それによじ登り、写真館の2階にあがろうと思いましたが、もう私にはそんな力は無く、壁も何から何まで流されてしまい柱だけになった写真館の1階で、和ダンスに乗っかって一夜を過ごしました。その内、雪が降ってきました。幸い屋根があったのでそこは免れましたが、
ただ、他所の屋根が寄ってきたり、見たことのない立派な建物があると思えば、ここにあるはずのないお寺が流されてきていることに気付き、それは恐怖でしたよ。

そのうち、このままここに居たのでは低体温でダメだと思い、とどまったところが自宅近くだったので、自宅まで戻ることにしました。自宅は二階が残っているのではないか?と周りの様子から予想して。それから水位が下がっていて、周りの景色から恐らく胸までつかるぐらいの高さではないか?と思い、思い切って水の中におりて移動しました。予想通り、水位は胸までの高さで、瓦礫をかき分け、かなりの時間をかけて家までたどりつくと、津波による泥が家を埋め尽くしていて、泥ってとても重いんですよね。ドアが全然空かなくて。
それでもなんとかこじ開けて中に入ることができました。理事長先生

生存本能でしょうか?自分でも驚くほど冷静で、かつ的確な行動をとったと思います。でも、本当に幸運だったと思います。低体温で亡くなった方が随分といらしゃったようですから。

さて、瓦礫やらいろいろなものをかき分け、ようやく二階に上がり、幸いにもお風呂が二階にあったので、残り湯で泥だらけの体を洗うことができました。

ふと二階のベランダ外に出た時、少し離れた工場の屋上に息子が居て、私は気づかなかったのですが、息子は私だと気付いて大声で呼びました。彼は、工場の屋上で津波に飲まれた街を見ながら一夜を過ごしたようです。
息子のことも心配で、全く眠れない夜を過ごしました。この時、不思議なことに、沢山の光を見たんですよ。

―― 震災に遭って、何か想いは変わりましたか?

理事長先生

私自身は、ミッション系の学校に通っていたこともあり、クリスチャンの思想を持っていたのですが、震災の後は、神道的な日本人の良さに気づきました。震災で世界中から日本人の秩序、気質、精神などが賞賛されましたよね?そのことに私も気付かされたわけです。

以前、和歌山県に行ったときに神道に興味をもち、名取市に熊野信仰があることを知りました。その後、名取市の熊野那智神社へ行き、「感得(かんとく)」という言葉に出会ったのです。レイチェル・カーソンのセンス・オブ・ワンダーに通じるものだと思いました。

「sense of wonder = 不思議だと思う」、つまり、自分に向けられた現実を受け入れる静かな心ということです。
日本古来のものと結びつく、日本の神道は「sense of wonder」不思議だと感じる力、日本人の魂だと思います。これを大切にしていかなくてはいけないと思いました。

―― これからのどんな幼稚園に?

「礼節」を重んじる幼稚園でありたいです。職員も全て「礼節」を重んじて。

というのは、将来の子どもたちのために、世界中紛争が絶えないこの時代に、平和を信じるのは日本ならではだと思うのです。
こういうときに表れてくる日本人の特性を大事に。世界の平和を重んじるのは日本人の感覚だから。理事長先生

人間は誰しも完璧ではなく、不完全であり、間違いを起こす。その間違いに対して「礼節」を持って弁えなければいけない。子供も大人も、その人それぞれに人格があります。それぞれに人格を尊重して、大事に向き合っていきたいと思います。

そして、日本の文化をちゃんと教えようと思い、月に1度、お茶を教える機会を設けようと思っています。子ども用のお茶器も揃えたんですよ。大人用では大きくて重いですから。屏風と畳の空間で、「礼節」を学べるよう願っています。

わかば幼稚園は、従来、礼節を重視していて、特に挨拶を大切にしていました。最近、それを少し忘れていましたが、震災を超えて、もう一度、それを見直したいと思います。

―― 閖上の子どもたちは、挨拶をとてもしっかりしていました。それは、幼稚園教育からしっかりと習慣付けていたからなんですね。

そうです。「あいさつをする」ということを一番に。一人一人と向き合って挨拶をする。
あたり前のことですが、小さい頃から習慣として身に着けてほしいと思います。

 

2014年5月29日
美田園わかば幼稚園職員室にて
文責:平成8年度卒業生 伊東

 

インタビュー時の幼稚園の様子

伝承遊び お昼の様子
▲「伝承の遊び」を学び遊んでいました。定期的に講師の先生が来てくださいます。(写真:左)
▲次の週に行われる遠足のお昼の練習をしていました。(写真:右)

縁側の写真
▲縁側には、ボランティアの方々が植えてくださったお花がきれいに咲いていました。